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広島地方裁判所 昭和63年(ワ)423号 判決

主文

一  被告は原告に対し、原告から金八二万四〇〇〇円の支払を受けるのと引換えに、金一一五九万八八四七円を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は二分し、その一を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。

四  この判決の第一項は仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は原告に対し一一九六万八六四七円及びこれに対する昭和六二年一二月一日から支払済みまで一日につき一〇〇〇分の一の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  第一項につき仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、土木建築工事の請負を業とする会社である。

2  原告は、昭和六一年一二月二四日、被告と次のような請負契約(以下「本件請負契約」という。)を締結した。

(一) 当事者   注文者被告、請負人原告

(二) 工事内容  住宅(以下「本件建物」という。)の建築工事(以下「本件本体工事」という。)

(三) 工事場所  広島市安佐南区山本七丁目甲一三二八番地

(四) 工期    昭和六二年二月から同年一一月末日まで

(五) 引渡時期  完成の日から一〇日以内

(六) 代金    一六五〇万円

(七) 右支払方法 契約締結時に一〇〇万円、昭和六二年四月末日限り四〇〇万円、完成引渡時に一一五〇万円を支払う。

(八) 違約金   注文者が工事代金の支払を遅滞したときは、違約金として遅滞日数一日につき支払遅滞額の一〇〇〇分の一に相当する金員を支払う。

3  本件請負契約締結後、被告から代金四六万八六四七円の追加工事(以下「本件追加工事」という。)の注文があり、工事代金は、合計一六九六万八六四七円となった。

4  原告は、本件本体工事及び追加工事を完成し、昭和六二年一一月末に被告に引き渡した。

5  被告は、原告に対し昭和六一年一二月二九日に一〇〇万円、昭和六二年七月一七日に四〇〇万円を支払った。

6  よって、原告は、被告に対し請負残代金一一九六万八六四七円及びこれに対する引渡しの日の翌日である昭和六二年一二月一日から支払済みまで一日につき一〇〇〇分の一の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1は認める。

2  同2のうち(四)、(七)の四〇〇万円の支払期日及び(八)は否認し、その余は認める。工期は、昭和六二年二月から同年一〇月一五日までである。代金四〇〇万円の支払期日は、定められていなかった。違約金に関する合意は成立していない。

3  同3は否認する。原告が本件追加工事代金として請求しているトイレの便器代金は、当初の見積書に計上されているので、右請求は、二重請求である。

4  同4は否認する。原告は、本件建物北側のテラスの工事を施工しておらず、工事を完成していないから、請負代金を請求することはできない。また、下駄箱(代金一〇万三八〇〇円)は、納入されておらず、掘り炬燵(代金七万六五〇〇円)は、枠を作ってコンクリートを打ったのみで、電気配線もなく、やぐらも納入されておらず、掘り炬燵としての用をなさないものであるから、右各代金を請求することはできない。

5  同5は認める。

三  抗弁

1  原告は、未だ本件建物を被告に引き渡していないから、被告は、右引渡しがあるまで同時履行の抗弁権に基づいて請負代金の支払を拒絶する。

2  本件建物には、次のような瑕疵がある。

(一) 納戸土間のコンクリートに亀裂が入っている。

(二) 二階和室中央部付近の床板が盛り上がり、同部屋の障子及びアルミサッシ戸が開閉不能となっている。

(三) 本件建物南側の一、二階の庇は、設計図では、化粧庇となっているが、現実には、モルタル庇の粗末な庇となっている。

(四) 玄関ポーチの壁は、設計図書では、鴨居までタイル張り仕上げとなっているが、現実には、タイルが張られていない。

そこで、被告は、原告に対し右瑕疵の修補を請求したが、原告は、右修補義務を履行しない。したがって、被告は、本件請負代金債務の履行を拒絶する。

3  原告は、昭和六二年一二月一八日頃、未完成工事及び瑕疵修補工事をしないまま、一方的に工事を中断した。そこで、被告は、昭和六三年一月一四日、原告に対し未完成工事の施工と瑕疵の修補を請求し、さらに同年三月一九日右施工及び修補をしないのであれば、損害賠償の請求をする旨申し入れた。しかし、原告は、右請求をいずれも拒否し、被告は、四年近く本件建物(風呂場を除く。)を使用できない不利益を被っている。これに加え、本件建物は、相当中古化し、これによる損害も大きい。しかも、本件建物には、前記のとおり瑕疵があり、これを修補しても傷ものとなり、建物としての価値の減少を免れない。これらを併せ考えると、被告は、瑕疵修補によっては償われない損害を被っているものというべきであり、その損害は、一〇〇万円を下らない。

したがって、原告は、被告に対し右一〇〇万円の損害を賠償すべき債務を負担しているところ、被告の請負代金債務は、右損害賠償債務と同時履行の関係にあるから、被告は、右損害賠償債務が履行されるまで請負代金債務の履行を拒絶する。

4  原告は、母屋台所の調理台を移設した後の壁工事、工事のための仮設の取付道路及び廃材の各撤去工事をする義務を負っていたが、原告は、右義務を履行していない。そこで、被告は、右義務が履行されるまで請負代金債務の履行を拒絶する。

5  本件建物には、前記2の瑕疵のほか、電話配線接続工事の瑕疵及び台所吊り戸棚取付け工事の瑕疵がある。右瑕疵修補に要する費用は、前者につき二万五〇〇〇円、後者につき五万五〇〇〇円である。

したがって、被告は、原告に対し瑕疵修補に代わる損害賠償として右費用相当額の支払請求権を有する(被告は、右各瑕疵については、修補請求に代えて損害賠債請求をする。)。

また、前記2の各瑕疵の修補に要する費用は、前記2の(一)につき三〇万八〇〇〇円、同(二)につき三五万八〇〇〇円、同(四)につき七万八〇〇〇円である。そこで、被告は、前記2の瑕疵修補請求が認められない場合は、修補に代えて右費用相当額の損害賠償請求をする。

以上の原告の修補に代わる損害賠償債務は、請負代金債務と同時履行の関係にあるから、被告は、右抗弁権を行使する。

四  抗弁に対する認否

抗弁は、いずれも否認する。

仮に、瑕疵があっても、請負代金の支払を拒絶できるのは、瑕疵修補に要する費用又は当該瑕疵に係る損害賠償の額に限られる。けだし、瑕疵のあることに藉口して多額の請負代金の支払を拒絶するのは著しく信義則に反し、権利の濫用となるからである。

第三  証拠(省略)

理由

(省略)

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